住宅会社の「施工事例」にAI画像はアリかナシか。制作のプロとしての見解とリスク

最近、住宅業界のクライアント様との打ち合わせで、こんなご相談をいただくことがありました。

「施工事例の写真、AIでもっと“映える”ように加工できませんか?」 「天気が悪かったし、家具もないから、AIでいい感じに生成して載せたいんです」

手塩にかけて建てた家を少しでも良く見せたい。見栄えのいい写真をたくさんのお客様に見てもらいたい。そのお気持ち、痛いほどわかります。生成AIの技術は魔法のようで、私たちクリエイターにとってもワクワクするツールです。 しかし、こと「施工事例」に関して言えば、私の答えはNOです。

「施工事例として載せるなら、AIによる過度な加工は絶対にNGです」

少し厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、これはクライアントを守るため、そしてその先にいるお客様(施主様)を守るための、譲れない一線でもあります。 なぜ、過度なAI加工に「待った」をかけるのか。現場の肌感覚と、法的なリスクの両面からお話しします。

目次

「施工事例」は「イメージ画像」ではなく「証拠」である

まず、「施工事例」という言葉の定義から考えてみましょう。お客様(施主様)がホームページの「施工事例」を見るとき、何を期待しているでしょうか?

Instagramのような「雰囲気のある画像」でしょうか? いいえ、違います。お客様が知りたいのは「この会社の実力(エビデンス)」です。

  • 本当にこれだけのクオリティで建てられるのか?
  • 自分たちの予算でも、本当にこのような家が建つのか?
  • 写真で見た美しい仕上げは、標準仕様なのか?

施工事例は、その工務店やハウスメーカーが実際に建てた「事実の記録」です。 そこに、本来は存在しない造作家具を描き足したり、標準仕様ではない豪華なキッチンに入れ替えたりといったAI加工を加えることは、極端に言えば「履歴書の経歴を詐称する」のと同じくらい、信頼に関わる行為だと考えます。もし、あなたが採用面接官だとして、履歴書(AI画像)は完璧なのに、面接(見学会)に来た人が別物だったらどう思いますか?

「写真は嘘だった。じゃあ、耐震等級の話も、断熱性能の説明も、全部話半分で聞いたほうがいいな」

一度植え付けられた不信感は、拭えません。 どれだけ素晴らしい家を建てていても、入り口で「嘘」を感じさせてしまえば、その先の契約には絶対に結びつかないのです。

宅建士ライターが指摘する「法的リスク」

今回の件について、私の個人的な感覚だけでなく、iworksのパートナーである宅建士(宅地建物取引士)資格を持つ不動産専門ライターにも緊急ヒアリングを行いました。

プロの視点から返ってきた答えは、やはり「NO」。そこには法律と業界ルールという、2つの高いハードルがありました。

1. 景品表示法(優良誤認表示)

まず一つ目は、国の法律である「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」です。 実際には施工していない仕様や、実物よりも著しく見栄えを良くした画像を「実績」として掲載することは、消費者に誤解を与える「優良誤認表示」にあたる恐れがあります。

2. 不動産の表示に関する公正競争規約

そしてもう一つ、不動産業界特有の厳しい自主規制ルール「公正競争規約」です。ここには写真やCGの扱いについて明確な基準があります。

  • 原則は「実物の写真」  規約では、物件の表示には「実際に取引するものの写真」を使用することが原則とされています。
  • 著しく異なる表示の禁止  CGや加工画像を用いる場合であっても、「実際のものよりも優良であると誤認されるおそれのある表示」は禁止されています。 (参考:不動産の表示に関する公正競争規約施行規則 第10条・第23条等)

つまり、AIで生成した画像によって「実際とは大きく異なる外観や内装」を掲載すること自体が、この規約違反となるリスクをはらんでいるのです。

「AIで作りました」と注釈を入れたとしても、それが「施工事例(=完了した建物の実績)」として紹介されている以上、消費者はそれを「事実」として受け取ります。そこで実物と乖離した画像を見せることは、業界の公正な競争を妨げる行為として、ペナルティの対象になり得るのです。

それでもAIを使いたい場合の「境界線」

もちろん、AIを全否定するわけではありません。大切なのは、使いどころ。事実を捻じ曲げない範囲であれば、強力な武器になります。 私がお伝えしている「OK」と「NG」のラインは以下の通りです。

【OK:演出としての利用】

  • 不要物の除去: カラーコーンや電線を消して見栄えを整える。
  • 空の差し替え: 曇り空を青空にする。
  • バーチャルホームステージング(条件付き): 空っぽの部屋に家具を配置する。
    • ただし、「※家具・小物はCG合成によるイメージです」という注釈が必須です。

【NG:事実の改変】

  • 部材の変更: サイディングを塗り壁風に変える。床の質感を変える。
  • 構造の変更: 窓を増やす、部屋を広く見せる。
  • 設備の追加: 実際には設置していない太陽光パネルや造作家具を追加する。標準仕様のキッチンをハイグレードなものに変える。
  • 外構の捏造: 砂利敷きの駐車場をコンクリートやタイル張りに変える、契約外のカーポートや豪華な植栽を付け足す。
  • ゼロからの生成: 架空の家を「施工事例」として載せる。

「施工事例」と「イメージ」は、混ぜるな危険

もし、どうしてもAIで作成した理想的な家の画像を使いたい場合は、掲載場所を分けましょう。

  • 施工事例(Works) 嘘偽りのない実写のみ。多少暗くても生活感があっても、それが「リアル」な信頼になります。
  • コンセプトイメージ(Concept) ここで存分にAIを使ってください。「こんな暮らしもできますよ」という世界観を伝えられます。ただし「※AI生成イメージです」と正直に添えて。

この「区分け」ができる誠実さこそが、今の時代の工務店選びのバロメーターになると、私は感じています。

【まとめ】実直な「事実」こそが、最強の集客コンテンツになる

AI技術はこれからも進化し続けるでしょう。 誰でも簡単に、プロ並みの、いやプロ以上の「きれいな嘘」をつける時代になりました。

だからこそ、逆説的ですが「事実」の価値が上がっています。

住宅は、お客様が人生をかけて購入する、そこにある「リアルな生活」の場です。 「バレなければいい」「少しくらい盛ってもいい」という誘惑に負けず、実直に積み上げた泥臭い「施工事例」こそが、最終的に一番お客様の心を動かすと、私たちは信じています。

iworksはこれからも、クライアントのブランドを守るために、時には「それはやめましょう」と苦言を呈するかもしれません。 でもそれは、貴社の建てる家が本当に素晴らしいことを知っているからこその、エールだと思っていただければ幸いです。

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