編集・ディレクション業務にAIを使い始めて、いちばん意外だったのは、同じライターの原稿を繰り返しチェックさせていくうちに、「あ、またこのパターンだ」と気づく瞬間が生まれることだった。
生成ではなく、チェック。それも、単なる誤字脱字の指摘ではない。論理の飛躍、語義のずれ、根拠のない断言——そういった「なんとなく読んでいて引っかかる」ものを、AIは言語化して返してくる。しかも、同じライターの原稿を複数回にわたってチェックさせると、同じパターンが繰り返し浮かび上がってくるのだ。
編集者の「なんとなく」を言語化する
SEO記事のディレクションをしていると、ライターから上がってくる原稿に対して「なんか違うんだよな」と感じる瞬間がある。文法的には問題ない。事実も合っている。でも読み返すと、どこかに引っかかりがある。
以前はそういう感覚を自分で言語化して、ライターへのフィードバックをゼロから書いていた。時間がかかるし、毎回同じような指摘を書いている気がして、かなり消耗する作業だった。
AIにチェックさせるようになって変わったのは、この「言語化」の部分だ。
たとえば、こんな文章が原稿に入っていたとする。
「換気やお手入れが行われない空き家は、想像以上のスピードで劣化が進みます。屋根や柱が老朽化した状態で強風や地震に見舞われると、倒壊して近隣のお住まいを傷つけてしまい、損害賠償を求められるおそれも。リノベーションで構造補強しておけば、こうしたリスクも軽減できます。」
何か違う、何か足りない。読んで、なんとなく違和感を覚えないだろうか。AIはここに対してこう返してくる。
「『お手入れされていないから劣化が進む』という話の解決策は『適切に管理する』ことのはずです。そこから突然『リノベーションで構造補強する』という結論に飛んでおり、なぜリノベーションが必要なのかの橋渡しがありません」
そうなのだ。放置による劣化の話と、リノベーションによる予防的補強の話の間に、説明が一段抜けている。「なんとなく読んでいて引っかかる」の正体は、こういうことだった。
初稿・修正稿・完成稿と段階的にチェックさせる
AIへの原稿チェックを一回で終わらせる必要はない。むしろ、初稿・修正稿・完成稿と段階的にチェックさせることで、はじめて見えてくるものがある。
初稿チェックでは、問題点の洗い出しが中心になる。ロジックの飛躍、語義のずれ、事実の根拠不明、表現の軽さ——これらを拾い上げ、ライターへのフィードバック文書を作る。
修正稿が上がってきたら、再度チェックさせる。このとき重要なのは「前回の指摘に対応できているか」の確認だ。AIは前回の指摘を踏まえたうえで、対応済み・未対応・新たな問題を仕分けしてくれる。
ここで意外な発見がある。「直った箇所」と「直っていない箇所」の比率を見ていると、ライターの優先順位が透けて見えてくるのだ。表現面の指摘はすぐ対応するが、ロジック面の指摘は後回しにする傾向があるライター。逆に、事実確認は丁寧だが文体の指摘は軽視するライター。一度や二度のやりとりではわからなかったことが、段階的なチェックを通じて輪郭をもって現れてくる。
完成稿の最終チェックでは、残課題の整理と入稿前の最終確認を行う。事実情報の出典、制度の最新性、数字の根拠——今までは人力で行っていたこうした編集者による確認作業もAIと並走して進めることで、見落としが減る。
「書き癖」が浮かび上がる瞬間
最も面白い発見は、同じライターの原稿を複数回チェックさせたときに起きた。
ある原稿で、AIが繰り返し指摘するパターンがあった。
ひとつは「因果の飛躍」だ。「回遊動線を取り入れると、家事がスムーズになります。その結果、お子様とじっくり向き合う時間や心の余裕も持ちやすくなるでしょう」——こういう締め方が繰り返し現れた。動線の改善が家事の効率を上げるのはわかる。でも、そこから「心の余裕」まで飛ぶのは一段論理が跳んでいる。育児や仕事、睡眠など、心の余裕に影響する要素はほかにいくらでもある。それでも断言してしまうのが、書き手のクセ。原稿に繰り返し現れたパターンだった。
もうひとつは「自明な内容の繰り返し」。見出しで述べたことを冒頭の一文でほぼ同じ言葉で繰り返す。前の文で説明した内容を、表現を変えてもう一度述べる。情報が増えないまま文字数だけが増えていく。
そして「語義のずれ」。言葉の本来の意味ではなく、なんとなくのイメージで選んだ言葉が、読者に微妙な違和感を与えているケースだ。「たとえば『示唆』は『それとなく示す』という意味だが、『示している』『表している』という意味で使われることがある。あるいは『確信』を『自信』の意味で使うケースも。なんとなくのイメージで選んだ言葉が、読者に微妙な違和感を与えている。一つひとつは小さなずれでも、積み重なると文章全体の信頼感に影響する。
これらは別々の記事で、別々の箇所に現れていた。人間の編集者は「今回の原稿」を読む。AIは「パターン」として認識できる。同じライターの複数原稿を同じ会話の流れでチェックさせると、原稿に繰り返し現れる傾向として把握できるのだ。
ちなみに、これはライターだけに限った話ではない。AIにチェックさせていると、発注側の指示の曖昧さや、編集者自身の判断パターンも見えてくることがある。「書き癖」は誰にでもある。AIはそれを、感情を交えずに指摘してくれる。
フィードバック文書をそのまま生成できる
もうひとつの実用的な発見は、チェック結果をそのままフィードバック文書として出力できることだ。
「修正前・修正後・修正理由」という構造でフィードバックを整理するよう指示すると、ライターに渡せる形の文書が生成される。修正後の表現だけでなく「なぜ直すのか」の理由が明示されるため、ライターが次の原稿で自己改善しやすくなる。
これは編集者にとって大きな時間の節約になる。以前は「なんとなくの違和感」を言語化するところから始めていたフィードバック作成が、AIとの対話を通じてすでに言語化されている状態から始められる。編集者がやるべきことは、AIの出力を確認・調整してライターに渡すことだけになる。
ただし、AI出力をそのままライターに渡すのは避けたほうがいい。AIの指摘が的外れなこともあるし、指摘の優先順位は編集者が判断すべきだ。あくまで「編集者の診断補助ツール」として使うのが正しい使い方だと思っている。
注意点|AIは間違える
便利な反面、注意しておきたいことがある。
AIは事実を間違える。制度の詳細、法改正の内容、数字の根拠——こうした情報については、AIの指摘を鵜呑みにせず、必ず一次資料(行政の公式ページ等)で確認する必要がある。実際に今回の作業の中でも、固定資産税の増加倍率についてAIが「最大6倍」という数字を提示したが、根拠となる一次資料を確認すると数字の出典が明確でなく、最終的に定性表現に変更した場面があった。
また、AIの判断基準は会話の積み重ねで形成されていく。同じプロジェクト内で会話を続けることで精度が上がる一方、別の会話では一から積み上げ直しになる。「このライターにはこういう傾向がある」という認識を持続させるには、同じ会話(プロジェクト)内で作業を続けることが重要だ。
まとめ|AIは「今回の原稿を直す」だけではない
AI活用というと、コンテンツ生成や要約・翻訳のイメージが強い。しかし編集・ディレクション業務での使い方として、「段階的な原稿チェックを通じてライターの書き癖を把握する」というアプローチは、まだあまり語られていない。
生成AIは「書いてもらう」ツールだと思っていたが、「読んでもらう」ツールとしての価値がそれ以上かもしれない——というのが、今回いちばん大きな気づきだった。
目指すのは、今回の原稿を直すことではなく、ライターが次の原稿で自分で気づいて直せるようになること。そのためのフィードバックサイクルを回すうえで、AIは意外なほど役に立つパートナーになる。
